「おかあさん、私を産んでくれてありがとう」という台詞がありますが、これは理論的にはおかしい。 
 おかあさんは、とくにあなたを産もうとしたわけではないからであり、生まれてからあなたはあなたになったからです。   
 そもそも、誰も生まれようとして生まれたのではない。 
 このことをよくよく考えてみると、かならずしも生まれたことに感謝せよという結論にはならない。 
 勝手に生まれさせられたことを、深く恨んでもいいわけです。   
 私が親になっていちばんよくわかったことは——「親の恩」ではなく——親とはなんと自分の子供に対して狭量であり勝手であるか、ということ。 
 「おまえのため」と思っていることの九割がそうではなく「自分のため」だということです。   
 親から「誰のおかげで大きくなったのだ!」と問い詰められたら、「大きくならなかったら、誰がいちばん困るんだ!」と言い返せばいい。 
 それは親だからです。   
 私は、親をはじめ、他人に心配かけまいと思ったことがない。 
 私のことを心配する人は、勝手に死ぬまで心配しつづければいいのです。 
 それは、その人の趣味の問題。私にはまったくかかわりのないことです。   
 家族が大好きな人がいても、ちっともかまわないのですが、それはけっして人類共通の理想ではない。 
 家族を望まない人、家族が嫌いな人、家族に恨みを覚えている人など、山のような家族批判論者がいて当然なのです。
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