実際、海馬シナプス培養標本を「NMDA受容体」(LTP形成に関与する分子)の阻害薬で処置して培養し
たところ、クラスター入力は観察されなかったとのことで、これらの結果から、クラスター入力は、
NMDA受容体を介したシナプス回路の編成の結果、生じることがわかってきたのである。
そこで、LTPが樹状突起でどのような空間パターンで生じるかを、遺伝子改変動物を用いて解析した
という。「AMPA受容体」はグルタミン酸受容体の一種で、グルタミン酸を用いるシナプスでは最も
主要な受容体で、この受容体の数がシナプス結合の強さを決定し、学習によって増減する。また
、LTPに伴ってスパインに運ばれることも知られている。
さらに、AMPA受容体とGFPが結合した遺伝子に、任意のタイミングで発現させることができる工夫を
加えた遺伝子をマウスに導入して実験を行った。同マウスを、先の遺伝子を発現させないまま育て、
ある時、育った環境と異なる新しい環境へ置き、500秒間自由に探索させる。すると新しい環境下に
おいて、マウスはさまざまな学習をする必要があるため脳内でLTPが発生。この実験の直前に先の
遺伝子を発現させておくことで、この学習の結果起こったLTPだけを観察することが可能となる
仕組みで、その実験結果(画像4)を解析したところ、互いに近いところにあるスパイン群でLTPが
生じていたことが判明したという。
これはLTPが隣接したシナプスで生じやすいことを世界で初めて示したものだとのことで、今回の
実験結果を、これまでの回路発達に関する知見も踏まえて考察すると、クラスター入力は3つのス
テップによって成立していると推定されるとの結論に至ったという(画像5)。すなわち、(1)まずは
ランダムに回路が作られる、(2)シナプスの要・不要が判定される、(3)不要なシナプスが削り取ら
れるという順次過程だ。
今回発見された局所的なLTPは、ステップ2に貢献すると考えられている。その後、ステップ3の淘汰
過程を経ることで、クラスター入力を生み出す回路が選択的に残るものと考えられる結論となった。
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