ある日、残業を終え、雨の中を傘をさして歩いていた。歩く先は200m向こうの駐車場まで。
まっすぐの道をテクテク歩いてたら、反対側から20代と思しき男が傘もささず走ってくるんだ。当然、相手は全身ズブ濡れ。
おれと男がすれ違いになりそうになったとき、いきなり男はおれに近づいてきて、いきなり平手で頭をパシリと叩かれた。
まるでオイタした子供でも叱りつけるかのような叩き方。文字通り、パシッって乾いた音がした。
あまりのとっさのことで、おれは何が起こったのか状況を測りかねた。
その間に、男は何事もなかったかのように、ランニングする形で立ち去っていく。
屈辱的な気持ちより、気味悪さが先に立った。アイツ、頭おかしいんじゃないか?
それでも10mぐらい離れてから、さすがに腹が立ってきたので、道路に転がっていた石を引っつかむと放り投げた。
怒りにまかせての投擲だったので、まったくかすりもしなかったけど。
気を取り直してそのまま歩き、駐車場に着いて、自分の車に乗った。で、家に帰るべく車を走らせたわけ。
さっきの道に出たところで、例の男がこちらにランニングしてきたんだ。
そのころには不愉快な気分になってたんで、路肩に車を停め、男の方に寄ってった。これは説教タイムだな、と肩を怒らせた。
いきなり怒鳴りつけてやった。「てめえ、さっきは何のつもりだ、コラ! 人に暴力振るとは何様だ!」って言ったら、
相手は無表情のまま棒立ちの姿勢で、何の反論もしない。内心、やっちまったな……と、後悔したが後の祭りだ。
「さてはコレか、てめえ!」と、頭の横で指をグルグル回した。
男はそれにも反応せず、卒塔婆みたいに突っ立ったままだった。雨に打たれたまま。
おれはこのままではラチが明かないと思い、車に乗り込み、さっさとおさらばすることにした。
車を走らせると、あの男がいきなりダッシュしてきて、車の後ろのバンパーを蹴りつけてきた。
幸い、短い脚のせいで届かなかったが。
……つくづく思うよ、あの手は徹底的にスルーすべきだと。あとでこの話を会社の連中に話すと、相手にする方が悪いと釘を刺された。
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