自分の足で走るのでも、自転車でもバイクでも車でも、
速く走れば走るほど、流れ過ぎて行く景色を目が捉えきれなくなって
視野が狭まり、最後には前の一点しか見えなくなる。
この感覚に麻薬的な快楽を催すのが、いわゆる「スピード狂」であり、
レーシングドライバーなども技術が伴っているだけでみんなそうだから、
シューマッハも専門外のスキーで無理をして事故を起こし、
半分帰らぬ人となってしまったのである。
この、スピード狂に準ずるような性向を帯びている人間の、昨今なんと多いこと。
ただ「走る」という行為に限らず、なんらかの活動に勤しんでいること、
仕事でも遊びでもなんでもいいから一意的な行動に没頭することで
視野が狭窄化し、周囲が見えなくなることに惑溺する者たち。
社会的にそういう人間が多数化してしまっているのは、
それだけ目を背けたい現実がそこら中に溢れ返っているからでもあろう。
かといって現実逃避のために何かに没頭しているのでは、それがたとえ
よく稼げる仕事であろうとも、世の中の改善に与することはない。
己が性分がスピード狂であることから脱却し、
しっかりと立ち止まって深い呼吸を心がけることで、
四方八方全体を見渡せる超視覚的な感性を磨き上げることこそが、
悲惨な現実を今以上に建て直す、唯一の手立てとなるのである。
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