もう、何十年前か。
大阪から名古屋をつなぐ国道、通称名阪国道と言うのがある。
当時、貧乏だが車だけは持っていた俺は、よく名阪国道を通って名古屋に行ったり、その他いろいろな所にドライブに出かけていた。
ある日、いつもより出発が遅めだった。たしか早朝4時。
只々、行って帰るだけだが、名古屋に出発した。
新御堂から、御堂筋、市内を南へ、大国町で左折、R25号線で奈良へ。
奈良市内を右に左に抜けて、天理市、二階堂を過ぎて、勾田町(マガタチョウ)を左。
そして、しばらく登って福住インターから、名阪国道に乗ったんだが、もう交通量が多くて、速攻地元民用だろう小さな降り口から降りた。
と、降りた自分の後に、2台ほど同じ様に降りる車。
俺は、降りて北の方向に曲がった。
そしたら、後の2台も同じ方向に。
自分と後二台、3台が連なって走る形に。
のんびり走りたい俺は、どこか退避場所っぽい所は無いか探していた。
が、中々出てこない。
北の方向と言うのは適当に決めたので、今走っている道は、何処に抜ける道なのかも解らない。
勢いだけで、一本道を道なりに、後続二台に追われるように走っていて、どれくらいだろう。
やっと退避場所っぽい場所が目に入り、すかさず車を寄せた。
後続二台は、フラストレーションが溜まっていたのか、勢いを増して走り去った。
はぁ、やれやれ、チョット休んで再開するかと、何気に車から降りた。
もう、日が昇っていて明るくなっていた。
と、目の前の広がる風景に唖然とした。
靄の掛かった山と山の合間、ぽつぽつと家々が建ち、微かに煙突から煙が立ち昇る。
そこは朝日に照らされて、薄い桃色に染まっていて。
俺は思わず、後ろに手を組み、目を閉じて深呼吸をした。
美味しかった、空気が。
と、頭の先からつま先までを包み込むように、優しい風が吹く。
洗い流され行く自分が感じられた。
夢の様な感覚。
そして、目を開けてしばらくボォ‾っと集落を見つめた。
ふと頭の中に「桃源郷」と言う言葉が浮かんだ。
そう、ここは「桃源郷」に違いない・・・・・
そしてどれくらい佇んだか、季節が梅雨の前、ちょうど今頃で、昼になると暑く道も混むので、帰る事にした。
ホントは、集落に降りて行きたかったが、何処から降りるかパッと見、解らないのと、また来週来ればいいと思い、その日は来た道を戻った。
そして、次の週再び「桃源郷」に向かった。
が、なぜか退避場所が見つからない。
同じ所で降りて、北に向かって、一本道で・・・・
どれだけ行っても、その場所が出てこない。
結局別の集落に出てしまい、Uターンしてもう一回、でもやっぱり無い。
次の週も、その次の週も、降りる場所を変えて見て走ってみたが、やっぱり辿り着けない。
そして、今に至るまでとうとう二度とその場所には、行けずじまい。
あれは、ホントに「桃源郷」だったのかなぁ・・・・・
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