●自殺の遺伝学
【しょせん我々は分子機械なのでしょうか?】
最近、"Genetics of Suicide" (自殺の遺伝学)という総説が「分子精神医学」という雑誌に
掲載されました(Mol Psychiat, 2006)。
この論文は過去10年間に行われた自殺に関連する遺伝子の探索に関する解説を詳細に行っています。
これによると、ヒトの情緒・気分に深く関係する神経伝達物質セロトニンの量を調節する2つの遺伝子が
自殺を起こすことと関係が深いことが証明されています。
1つはトリプトファン水酸化酵素1(TPH1)でこのイントロン7にある779番目又は218番目の塩基がA(アデニン)
からC(シトシン)に変化させる多型が、セロトニン合成を低下させ、衝動的な自殺を多くするというのです。
またセロトニントランスポーター(5-HTT)の上流調節領域にある44塩基の欠損の多型はシナプス間隙における
セロトニンの再利用を低下させ、自殺のような自己破壊的行動と関係するといいます。
最近イジメによる自殺が問題となっていますが、学校側はたいてい「イジメはなかった」という見解を示します。
大人の常識ではイジメとは認識できないような場合でも、セロトニンの機能障害がある児童では考えられないような
反応を起こす可能性があるのです。
児童は育った環境によっても個性が生じます。
ただでさえ、小児期は多感で、問題への適切な対処法を知らぬゆえ、大人にはなんでもないようなことでも、
自殺への袋小路へ追い込まれてしまうこともまれではないと思われます。
イジメ問題は「大人の常識」では推し量れない問題である「児童の生物学的個性」を含んでいることを
教育者は肝に銘ずる必要があります。
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