とはいえ、「騙されやすい」「信じやすい」性質、言い換えれば「虚構を信じることができる能力」こそが、
実は人類だけが持つ最高の特質のひとつである…というのが悩ましいところでもあります。
地球には、現在1種類の人類しかいません。言わずと知れた、私たちホモ・サピエンスです。
しかし、かつて地球上に現れた人類は、ホモ・サピエンスだけではありませんでした。
他の生物と同様に、人類の進化の道筋は1本ではなく、さながら天に向かって成長する樹木のように、
いくつもの枝別れをし、さまざまな形態的特徴をもつ人類が誕生しました。
アウストラロピティクス、北京原人、ネアンデルタール人、ホモ・エレクトス、ホモ・フローレス…etc.
そして、あるものは途絶え、あるものは子孫を残しました。最後まで生き残ったのが、私たちサピエンスです。
かつて、たくさんの種類の人類が存在した地球上で、何故私たちだけが生き残ったのでしょうか?
たとえば、頑強な骨格・筋肉と優れた運動能力を持っていたネアンデルタール人とホモ・サピエンスが1対1で戦えば、
ホモ・サピエンスには全く勝ち目が無かっただろうと言われています。
そのように、相対的には特に身体的能力が抜きんでたわけではなかった我々の祖先の脳に、およそ7万年前、
“認知革命”が起きました。
何故かサピエンスには、「実在しないものを信じる能力」が身についたのです。
認知革命の始まりは、噂話をして、それを信じるようになったことです。
つまり、「あそこのあいつはめちゃくちゃ強いぞ」とか「あいつとあいつは仲が悪いらしい」と言った具合です。
他の人類種は、サピエンスのように噂話を信じない(そもそも噂話もしなかったのかもしれない)ので、
自分の目で見たものしか信用しません。つまり、全員が親しく知っている集団しか作れません。
そういう集団は、最大でも50人程度にしかならないと言われています。
一方、サピエンスの場合は、「あの人すごいらしいよ」、「あの人の言うとおりにすればネアンデルタール人にも勝てるよ」
などと言われれば信じることができるので、その話を共有するだけで、見知らぬ者同士でも協力し合うことができました。
そのおかげでサピエンスは、当時でも最大150人規模の集団が作れたそうです。
こうして、近隣の他の集団や、遠く離れた場所にある集団とも団結できるようになったサピエンスは、
大集団でネアンデルタール人を襲い始め、ついには滅ぼしてしまったのです。
その“認知革命”以降は、言わずもがな、国家、貨幣、宗教という、人類史最強の「虚構」が世界を構築し続け、
都合が良いと集団が認識すれば、時には真逆にも価値観を変えながら(フィクションは実在するものでないので、
その時の権力者やリーダーが新しいフィクションを柔軟に作りだすことができる)、歴史は今に続いています。
フランス革命が起きたり、明治新政府ができたりしたのは、フィクションが切り替わって、多くの人がそれに賛同した
(新しいフィクションを信じた)ということに他なりません。
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