近年、SNSの普及と共に、日本人のクレーマー体質の激化が目立って問題化している。
人の落ち度をどんなに軽度でも許さない心の狭さは、単なる正義感を大幅に逸脱した、
畜生のストレス解消にも等しい妄動として見る者の眉をひそめさせる。
その背景にあるのが、一つには敗戦コンプレックスからなる慢性的な鬱屈である。
これは気づいている人間も多い所で、今さら新たに提起するほどの論題でもない。
もう一つの原因が「故人バイアス」とでも呼ぶべき心理現象であり、こちらのほうが
むしろここで論じたい主題であると同時に、現代の日本人にこそ際立って見られる問題である。
敗戦コンプレックスのほうは、戦後すぐの頃から全ての日本人にのしかかって来たものだが、
当時まだ存命中の戦前世代が数多くいたものだから、「日本人たるもの恥ずべき
振る舞いをしてはいけない」という同調圧力が強くて、まだ誇りある人々も多かった。
それが今や、戦前世代もほぼ死に絶えてしまい、故人である先人たちの事績を本気で
敬い倣うことを憚る故人バイアスも相まって、誇りある振る舞いの心がけも絶えてしまった。
三島由紀夫が1970年にあんな時代錯誤なテロ行為に及んだのも全くの奇矯ではなく、
舩坂弘氏のような本物の英雄とも親交があり、孫六兼元を贈られるようなこともあったからである。
今の日本人はもうそんな相手がいないから、三島の心境を察することもできやしない。
敗戦コンプレックスは時代を重ねるごとに和らぐどころから、むしろ故人バイアスという
小市民じみた性向によって強化されることとなってしまったからこそ、今があるのである。
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